IT人材不足を解決する「カギ」をテクノロジーの進歩から考える

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IT 人材不足

「人材不足恒常化の時代が到来」~2030年、IT人材が78.9万人不足する

2016年6月10日に経済産業省が発表した「国内IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」によると、IT人材は現在91.9万人であるのに対し、17.1万人が不足していると推計しています。

もし、IT市場が高率で成長した場合、30年にはIT人材数が85.7万人なのに対し、不足数は78.9万人に上るとの予測もなされています。

また、この調査では、アメリカやアジア各国と比べ、日本は管理職クラスの割合や、理系専攻出身者が少ない傾向がみられ、各国のIT人材の年収比較調査でも、日本は年収500万円前後に回答者が集中している一方、

アメリカでは年収1000万円から2000万円の間に回答者が広く分布していることも明らかになりました。

同調査では、IT人材不足は、もはや未来予測ではなく現実に直面している問題であることが明確となったほか、IT人材をはじめとする理系出身者の社会的地位の低さもその要因であることを暗に指摘しています。

IT人材不足は日本自らが招いた災い~理数教育の後退

IT人材の不足が深刻となった大きな原因は、かねてから指摘されてきた「理系離れ」にあるとされています。

人口減の時代に突入し業種を問わず遠からず人材不足が問題となりつつある背景に加え、ITエンジニアなどを志し理系の道に進む学生が減少傾向にあることがこの問題に拍車をかけています。

「イノベーションのジレンマ」で知られるハーバード・ビジネス・スクールのクレイトン・クリステンセン教授が、著書「教育×破壊的イノベーション」において述べていることをまとめると

1970年代~80年代に日本企業がアメリカの競合を追い抜いた理由として「日本の人口はアメリカの四割しかいないのに、数学・科学・工学を学ぶ生徒がアメリカの四倍もいる」という説が有力とされてきた。

しかし、日本が繁栄を遂げると、理工系志望の学生や理工系の学位を取得する学生の割合が、この20年にわたって低下するという興味深い現象が起こった。

開発途上国が製造業を基盤として経済発展を図るとき、その国の学生は科学・数学・工学を学ぶことが「貧困からの脱出」を実現する最良の手段であり、日本も経済発展と貧困からの脱出という2つの目標を達成してきた国のひとつである。

しかし、同じ国が安定と繁栄を実現すれば、学生は自分が楽しいと感じる「自発的動機付けの持てる科目」を、より自由に選んで学ぶようになる。

これが技術的優位がアメリカから日本に移り、続いて中国とインドに移っている主な理由である。

クリステンセン教授は、「貧困からの脱出」が理工系を学ぶ大きな動機であると分析し、従って一定レベルの生活が保障されている先進国で「理系離れ」が起こるのはむしろ当然のことであるという趣旨のことを述べています。

しかしながら、IT時代の到来は90年代にはすでに予見されていたことであり、技術立国日本の地位を保つためにはIT人材の育成は喫緊の課題だったはずです。

先に述べたように日本が国家として成熟期を迎え、将来の選択肢の多様化から「理系離れが」進むことは必然だったとはいえ、それに抗ってIT人材の育成に力を入れるどころか、2002年の学習指導要領改訂では

「ゆとり教育」の名のもとに小中学生の理数系科目の内容を3割削減するなど、「理系離れ」に拍車をかけるような国策を打ってしまったのです。

IT人材不足が日本において特に顕著となっているのは、「理系離れ」の趨勢に何ら有効な手を打たなかった、どころか火に油を注いでしまった日本自らが招いた災いなのです。

労働力不足問題の解決には多くの困難が待ち受けている

人口減少がもはや止めることのできない事態であるうえ、少子高齢化が加速度的に進むとそれと同時に労働人口の不足も深刻な問題となってきます。

「労働力確保のため、国力維持のため移民受け入れを検討すべきだ」という識者の声も多数聞かれるものの、イギリスのEU離脱や、現在ヨーロッパで発生しているテロ事件など移民に関わる問題が頻発していることからも、

少なくとも当面は慎重にならざるを得ません。人道的な見地ばかりでなく、あらゆる角度から精査する必要があります。

また、IT業界で求められているのは、「人手」ではなく「人材」です。したがって世界的にIT人材の不足が問題視されている中にあって、この業界においては「海外の安い労働力を…」という安易な考え方は通用しなくなると考えて間違いありません。

先進国にしろ、開発途上国しろIT教育を受けている人材が、敢えて「市場が縮小傾向」「言葉が通じない」日本に目を向けるメリットが見つからないからです。

いずれにしても日本が遠からず迎えるであろうIT人材不足の解決には多くの困難が待ち受けていることは厳然たる事実なのです。

経済産業省と企業の認識に大きな隔たり~テクノロジーの進歩が労働力不足のカギになる

ここまで日本を待ち受けているIT人材の恒常的不足がいかに深刻かを述べていましたが、2016年3月に同じく経済産業省の情報処理振興課が発表した「IT人材不足等に関する 企業ヒアリング結果について」によると

先の調査で経済産業省が鳴らした「人材不足」の警鐘に対して企業との認識に大きな隔たりがあることが明らかとなっています。

この調査では、調査対象となった企業の8割強(50社中42社)が「IT人材が不足している」と回答し人材不足は将来的なものではなく現在進行中の問題であることが明らかとなった一方で、半数の企業が人材不足の状態は東京オリンピックが開かれる2020年あたりまでと考えており、

不足分は現有戦力を中心に新規採用の増員(回答数25社)や国内関係企業との協力(回答数28社)、派遣人材を活用する(回答数18社)などの施策によって乗り切ろうと考えている意図を読み取ることができます。

日本は世界中の注目が集まる2020年の東京オリンピックまでは活況が続くことは容易に予想されるものの、過去の事例に従えばオリンピック後にそれまでの投資や消費の反動で不況に見舞われることも考えられます。

以降は、景気浮揚につながるようなイベントは計画されていないことからも、活況は2020年までという見方はより現実的であるとも考えられます。

来る将来の人材不足を危惧する国-経済産業省と、2020年まで乗り切れば何とかなると考える企業側の隔たりはまさに「水と油」との違いがありますが、この隔たりと人材不足の問題を解決するのがまさに彼らが生業としているITであり、テクノロジーなのです。

ほんの少し前は考えられなかった自動車の自動運転がAI(人工知能)によっていよいよ現実のものとなりつつあるのと同様に、人材不足を解決するカギは属人的なタスクを極力自動化し、信用に足る業務に関してはAIに委譲していくことにあるのではないでしょうか。

今後急速に発達していくテクノロジーが人材不足問題を解決する救世主となり得ることも十分に考えられます。

最後に確認して欲しいポイント

IT人材不足は、将来の日本のIT業界に暗い影を落としているのは事実です。しかしながら、これは日本のIT産業の衰退を意味するのではなく、更なる高みを目指すための試練だと受け取ることもできます。

「ヒト」という企業活動にとって最も重要なリソースを欠いた状態で、起死回生のクリーンヒットを飛ばせるかどうかが浮沈のカギを握っています。

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