首都圏にITエンジニアが集中することで懸念されるコンピュータ技術者と日本の将来

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首都圏コンピュータ技術者

首都圏、とりわけ東京への一極集中は日本の将来に様々な影を落とすことは予てから指摘されていました。

政府は、東日本大震災以降、今後30年以内に首都直下型地震が起こる確率が約70%と発表されたことやテロ対策など危機管理上の観点からも、首都圏に過度に集中した機能を分散させ、是正させようという機運を生み出そうとしています。

また、「日本創生会議」が、「2040年までに49.8%の自治体が消滅可能性都市になる」と発表したように、2008年から始まった人口減少によって進む地方の過疎化が急速に進み、国としての活力が失われる危機感もこの動きを後押ししています。

しかしながら、IT業界では地方分散どころか首都圏一極集中への動きがますます加速しています。インターネットは場所を選ばず情報発信ができることから、かつてIT産業は地方活性化の旗手と期待されていたのですが、実際のところIT企業は首都圏に集中してしまっているのが現状です。

どうやら政府の目指す「あるべき姿」と現実とは大きな乖離(かいり)があるようです。

一極集中を是正する政府の動向

安倍内閣は、東京一極集中を是正すべく2020年までに民間企業の本社機能や一部機能の移転を7500件増加させ、地方拠点における雇用者数を新たに4万人増加させるという政策目標を閣議決定。

2015年6月には、本社機能を地方へ移転する企業に対し税制優遇する法案を可決しました。この流れを受けて中央省庁の地方移転も本格的に議論が始まりました。

2016年2月の段階で文化庁(京都)、消費者庁(徳島)、中小企業庁(大阪)、観光庁(北海道・兵庫)、気象庁(三重)、特許庁(大阪・長野)、総務省統計局(和歌山)の7機関の8道府県が移転候補に挙がっています。

中央省庁の移転に関しては、国会や業界団体が東京を拠点にしていることから根強い反対意見があるようですが、「政府が率先して行わなければ説得力がない」と強気の姿勢を崩しておらず、年度末には移転する政府機関が決定する見込みとなっています。

それでもITエンジニアは首都圏に集中する

こうした政府の働きかけとは裏腹に、経営効率を高めるべく多くの企業が首都圏への一極集中を進めています。

バブル崩壊以降、日本経済の停滞が続く中で国際競争力を堅持すべく生き残りをかけた大企業は、グループ再編や合併、M&Aを断行することによって事業の集約を図ってきました。

その結果、本社機能をはじめとする企業の心臓部は首都圏に集中し、地方の拠点は統廃合される形で姿を消していったのです。

大規模なITシステムを必要とするメガバンクや通信産業、流通サービス業などが本社機能を首都圏に集約するならば、IT産業も当然のことながら、そうした大規模な案件に対応すべく同じよう、こぞって首都圏に拠点を構え、相当数のITエンジニア(コンピュータ技術者)を確保します。

このようにIT産業は、企業の数に比例して案件が生まれる構造のサービスが多く扱っているがゆえに、首都圏一極集中がトレンドならば、それと無関係ではいられないのです。

IT業界は、極論すればパソコン一台で事足りる仕事もあれば、システム開発のように完全なる労働集約型の仕事もあり、前者が場所を選ばないのに対して、後者は顧客との距離が離れることによるレスポンス速度の低下は、致命傷にもなりかねません。

IT企業が群雄割拠する首都圏において、受注の成否を握るのは、エンジニアの数とスピードなのです。

そして、大手IT企業が拠点を首都圏に移すと、二次請け、孫請けの中小IT企業までもが同じようにその後を追いかける結果となります。

この状態が続くと地方のIT企業は、持ち応えるのが難しくなり、案件が安定して発生する首都圏を目指すことになるのです。ITエンジニア(コンピュータ技術者)は首都圏に集中していくのです。

ITエンジニアの不足、一極集中を加速

IT業界の市場規模が依然として拡大基調を続ける中、深刻な問題となっているのがITエンジニアの人手不足の問題です。

一説によると2020年に開催される東京オリンピックでは、セキュリティー対策等を担うエンジニアが4万人不足しているとも言われていることからもその深刻さの度合いをお分かりいただけるかと思います。

ITエンジニアの人手不足は、複合的な要因が考えられます。まず第一は、2008年より人口減少局面に入った日本の、「働き手の人口が着実に減っている」事実です。

これはIT業界だけにとどまらず、今後需要が急拡大する建設業などインフラ関連の業界でも人手不足は深刻な問題となっています。「団塊の世代」が引退し、新卒世代の人口は、現在主力の「団塊ジュニア世代」と比べその約6割に過ぎません。

そもそも年々供給される働き手の「絶対数」が激減しているのが現状です。

第二は、働き手の絶対数が激減しているにもかかわらず、その中でも理系離れが深刻化していることが挙げられます。

これは、若手と呼ばれている世代が90年代から進められてきた「ゆとり教育」の集大成である数学、理科の学習内容が3割削減された2002年の学習指導要領の下で学生時代を過ごしたことと無関係ではないと思われます。

第三には、バブル全盛の時代に「きつい」「汚い」「給料が安い」職場のことを3K職場と呼ばれたのと同様に、現在ではIT業界が「きつい」「帰れない」「給料が安い」の新3K職場のイメージが定着しつつあることです。

近年は、ネット上における「ブラック企業」の告発が盛んになり、その上位の多くを占めるのは残念ながらIT関連企業です。

確かに、IT業界は比較的新しく、若い経営者が立ち上げたベンチャー企業が乱立していますから、創業期の企業は、企業として体力がつくまでは仕組みがついていかず「ブラック企業」的な側面が多分に顔を出すこともあるでしょう。

そのような側面がネット上でデフォルメされて拡散されていることが業界全体のイメージを悪くしていると考えられます。

このように、ITエンジニア(コンピュータ技術者)は、人手も不足している上に、業界全体が「ブラック企業」のイメージをもたれることで、希望者も伸び悩んでいる厳しい現実に晒されています。少ないパイを取り合った場合、地方には到底勝ち目がありません。

結果としてITエンジニアの不足は、一極集中を加速することになってしまうのです。

最後に確認して欲しいポイント

企業経営とITが不可分な関係となっている昨今、地方経済を支える企業にとってもITインフラの必要性は首都圏と何ら変わりはないはずです。

ゆえに、企業の論理からすれば、SIerの一極集中は業務効率化の上では当然の選択であることは頷けます。だからと言って地方をないがしろにして良いということでは決してありません。

しかし、残念ながら地方活性化の切り札として大いに期待された高速道路や新幹線の開通、延伸は、首都圏への移動を便利にした点で意義はあったのかも知れませんが、それがために、ヒト・モノ・カネが首都圏の大都市に吸い取られてしまう「ストロー効果」をもたらしました。

「地方のため」と銘打った施策がことごとく真逆の効果が生まれてしまった事例は枚挙に暇がありません。

これまで政府が行ってきた地方活性化に関する施策は、その多くが空振りもしくは思うような成果を得ることができませんでした。

人口減少時代に突入した現在、今度こそは「成果の出る」地方創生の施策を打ち出さなければ瞬く間に地方経済は疲弊(ひへい)し、遠からず国家の基盤を揺るがしかねない深刻な問題となる危険もあります。

特にIT分野に関する問題は一日も早い抜本的な対策が求められているのです。

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